2026年2月、日本のEEZ(排他的経済水域)内にある南鳥島沖でレアアース(希土類)の試掘に成功したというニュースが話題になりました。このタイミングで南鳥島のレアアースが注目されているのか、その経緯を解説して大きな反響を呼んでいます。「レアアースって結局何?」「なぜそんなに大きなニュースなのか」という方に向けて、基礎知識から発見の背景、投資家として知っておきたい視点までまとめて解説します。
そもそもレアアースとは?
レアアース(希土類)は、周期表上の17種類の元素の総称です。「レア(希少)」という名前がついていますが、地殻中の存在量自体はそれほど少なくありません。ただし、他の鉱物と混ざった状態で存在するため、経済的に採算が合う形で「分離・精製」するのが難しく、実質的に生産できる国が限られていることが「レア」と呼ばれる理由です。
レアアースは大きく「軽希土類」と「重希土類」に分けられます。特に重希土類(ジスプロシウム、テルビウム、イットリウムなど)は、高温でも磁力が落ちにくい強力な磁石をつくるのに欠かせない一方、世界的に中国以外での生産がほとんどないという偏りがあります。
なぜレアアースはこれほど重要なのか
レアアースが注目される最大の理由は、私たちの生活を支えるハイテク製品や、電気自動車(EV)・防衛関連の技術に欠かせない存在だからです。
- EVモーターの心臓部:ネオジムを主成分とする「ネオジム磁石」は、従来の磁石よりはるかに強力で、EVモーターの高効率化・軽量化に不可欠です。さらにジスプロシウムやテルビウムを添加することで、100℃を超えるモーター内部でも磁力を維持できます。
- 再生可能エネルギー・防衛産業:風力発電タービンの発電機や、ミサイル誘導システム、レーダーなど防衛装備品にもレアアースを使う高性能磁石・電子部品が使われています。
- ロケットなど精密機器のセンサー:例えば超電導材料などにも使われるイットリウムは、ロケットエンジンのターボポンプの回転数を検知する渦電流センサーのような精密部品にも使われており、供給が止まると製造そのものがストップしてしまうケースがある。
2025〜2026年、なぜ供給不安が一気に高まったのか
レアアースの「中国への一極集中」が経済安全保障上のリスクとして強く意識されるようになったのは2010年の尖閣諸島沖の漁船衝突事件がきっかけでした。この際、中国が日本向けレアアース輸出を事実上止めたことで、日本の製造業に大きな衝撃が走った経緯があります。
そして2025年4月、中国はジスプロシウムやイットリウムなど7種類のレアアースについて輸出管理を強化しました。この影響でイットリウムの価格は1年で約140倍に急騰したとも報じられています。さらに2025年11月、高市早苗首相が台湾有事を「存立危機事態」と位置づけうる可能性に言及したことをきっかけに中国が反発し、レアアース規制を含む対日措置を強化。2026年1月には、軍民両用(デュアルユース)品目の対日輸出を即日禁止する措置まで発表されました。ある試算では、レアアース・レアメタルの輸入が1年間途絶した場合、日本の実質GDPを最大3.2%(約18兆円)押し下げる可能性があるとされています。
中国のレアアース鉱山が抱える構造的な問題
供給が中国に偏る背景には、レアアース鉱山特有の難しさもあります。中国の陸上鉱山は、実は埋蔵量自体がそれほど豊富というわけではなく、ウランやトリウムといった放射性物質を含む鉱石が多いことが知られています。そのため採掘には強制労働など労働環境上の問題が指摘されることもあり、精製後に残る放射性廃棄物の処理も大きな課題です。裏を返せば、こうした問題を許容してでも大量生産を続けてきたのが中国だった、とも言えます。
南鳥島のレアアース泥はどうやってできた?
南鳥島沖のレアアース泥は、実は最近になって偶然発見されたものではありません。2011年、東京大学の加藤泰浩教授らの研究チームが、太平洋の深海底に「レアアース泥」と呼ばれる新しいタイプの資源が広く存在することを英科学誌ネイチャー・ジオサイエンスで発表したのが最初のきっかけでした。過去数十年にわたり世界中の研究者が集めていた海底ボーリングコアのデータを調べ直したところ、南鳥島沖を含む太平洋の一部海域の泥に、大量のレアアースが濃集していることが分かったのです。
南鳥島は、日本の島の中で唯一「太平洋プレート」の上に位置する島です(他の日本列島はユーラシアプレートやフィリピン海プレートの上にあります)。もともとは約1億年以上前、南太平洋付近の火山活動によって生まれた海底火山(海山)で、太平洋プレートに乗ってはるか日本近海まで移動してきました。通常こうした海山は長い年月の間に侵食されて海面下に沈んでしまいますが、南鳥島だけは一度沈んだ後に再び火山活動が起き、海底から高さ6,000mにも及ぶ巨大な山として海面上に姿を現しているという、非常に珍しい成り立ちを持っています。
研究チームは魚の歯の化石と海水中の微量元素(オスミウムなど)の同位体比を組み合わせた年代測定により、この超高濃度レアアース泥が約3,450万年前に形成されたことを突き止めました。この時期は地球規模の寒冷化が始まった時期にあたり、南極の氷床が拡大したことで深海の海流(深層循環)が強まったと考えられています。強まった海流が南鳥島のような巨大な海山にぶつかることで、栄養分に富んだ深層水が表層まで湧き上がる「湧昇流」が発生。これによりプランクトンが大量発生し、それを餌にする魚が周辺に大量に集まりました。魚は増えれば当然大量に死にますが、身の部分は微生物に分解される一方、骨や歯だけが海底にゆっくりと沈んで堆積していきます。この骨や歯を構成する「生物源リン酸カルシウム(BCP)」には、海水中のごく微量のレアアースを強く吸着して濃縮する性質があり、その結果、泥1kgあたり最大15,000ppmを超えるとされる超高濃度のレアアース泥が海底に蓄積したのです。
この生成メカニズムのおかげで、南鳥島のレアアース泥には中国の陸上鉱山のような放射性物質(ウラン・トリウム)がほとんど含まれていないという大きな利点があります。
南鳥島だからこそのもう1つの強み
洋上の油田開発のように何もない海上にプラットフォームを作るのは難易度もコストも高くなりますが、南鳥島には島そのものと滑走路があるため、周辺海域で回収した泥を島内で乾燥・減量させたうえで本土に輸送し、精錬するという現実的な開発プロセスを描ける点も強みです。
あわせて、レアアース開発が進んで人の往来や滞在が増えることは、離島防衛の観点からも意味を持つと指摘されています。南鳥島には現在、自衛隊や海上保安庁、気象庁の職員などが交代で駐在していますが、資源開発拠点としての機能が加わることで、遠隔の離島における日本の実効支配を維持しやすくなるという側面もあります。
今後のスケジュール
今後は、2027年1月をめどに1日あたり約350トンを想定した本格的な採鉱試験を行い、2028年3月までに採算性に関する報告書を提出、順調に進めば2030年ごろの商業採掘開始を目指すというスケジュールが示されています。ただし、深海6,000メートルからの安定的な引き上げや、採算に見合うコストで精製できるかなど、実用化までにはまだ技術的・経済的な課題が残っている段階です。
投資家として押さえておきたい視点
南鳥島レアアースの話題が広がる中、関連する企業に投資家の関心が集まっているのも事実です。報道されている動きとしては、商社が海外のレアアース生産企業と供給契約を結ぶ例(双日とオーストラリアのライナス社、住友商事と米国MPマテリアルズなど)があり、深海探査・海洋技術、精製・分離技術、レアアースを利用する需要側企業など、テーマとしては幅広い業種が関係してきます。
ただし、南鳥島の商業採掘はまだ2030年ごろを目標とした将来の話であり、採算性の報告書が出るのも2028年3月予定です。個別企業の株価は思惑先行で動きやすく、期待だけで判断すると値動きの大きさに振り回されるリスクもあります。「どの銘柄が有望か」を自分で一つひとつ調べるのは時間がかかるという方は、株式投資の専門家が銘柄を絞り込んで提供するようなサービスを情報収集の一つとして活用してみるのも選択肢です。
まとめ
南鳥島レアアースは、約3,450万年前という気の遠くなるような地球の歴史と、中国依存という現代の経済安全保障課題が重なって注目されている資源です。中国に偏った供給構造を変える可能性を持つ一方、商業化はまだ数年先の話であり、確実に成功すると決まったわけではありません。ニュースや動画で話題になったからといって、内容を十分に理解せずに投資判断をするのは避け、まずは基礎知識を押さえたうえで、信頼できる情報源をもとに冷静に判断することをおすすめします。
※本記事は2026年7月31日時点の公開情報をもとに作成しています。政策や採掘計画の進捗により状況が変わる可能性があります。また本記事は投資助言を行うものではありません。

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